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東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)117号 判決

一 請求原因一ないし三の各事実、すなわち、被告が特許権を有する本件各発明(第一発明及び第二発明) についてされた特許出願から本件審決の成立に至るまでの特許庁における手続の経緯、本件各発明の要旨並びに本件審決の理由に関する事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二 そこで、本件審決の取消事由の存否につき判断する。

(一) まず、先願発明の構成における柄板(選針部体)の位置に関して本件審決がした限定解釈の当否につき検討する。

成立に争いのない甲第三号証(先願発明の特許公報)によれば、先願発明は、発条作用により第一位置から第二位置へ移動する傾向の複数個の柄板を作動装置により第一位置へ引戻すとともに、信号担持部上の信号に応答して作動する信号応答装置に連絡されたストツパー装置により拘束し、それによつて第一位置に残留する柄板と発条作用で第二位置に移動する柄板とを生じさせて、各柄板に設けた選針用突起をいろいろに組合わせ、編針選択のための所要の選針柄を生じさせるものであつて、各柄板の第一位置と第二位置との種々の組合わせを信号担持部体の信号に応じて自動的に生じさせることができるため、選針に誤りを生ずることがなく、使用者の負担を軽減して模様編の編進を円滑にすることができるという作用効果を奏するものであるところ、編針の位置は、前記第一位置と第二位置の二位置のみであり、これを編針に対する関係でいえば、編針に作用する位置と作用しない位置であり、明細書に記載されている実施例においては、第一位置が不作用位置で、第二位置が作用位置であるものが示されているが、明細書中には右実施例の場合の構成にだけ限定する旨の記載はないことが認められる。右認定事実と特許請求の範囲の項の記載とからすれば、先願発明の構成における柄板の「第一位置」と「第二位置」は、論理的に次の(イ)、(ロ)の二つの場合がありうることになる。

(イ) 第一位置―作用位置、第二位置―不作用位置。

(ロ) 第一位置―不作用位置、第二位置―作用位置。

すなわち、先願発明の特許請求の範囲に記載されている構成は、(イ)の場合(発条作用によつて常時不作用位置に位置せしめられる柄板を、作動装置の一方向運動により、発条作用に抗して一旦すべて作用位置に移行させたうえ、信号担持部体の信号に応じてストツパー装置により特定の柄板のみを作用位置に拘束し、その他の柄板を作動装置の他方向運動により発条作用によつて不作用位置に復帰させる構成)と、(ロ)の場合(発条作用によつて常時作用位置に位置せしめられる柄板を、作動装置の一方向運動により、発条作用に抗して一旦すべて不作用位置に移行させたうえ、信号担持部体の信号に応じてストツパー装置により特定の柄板のみを不作用位置に拘束し、その他の柄板を作動装置の他方向運動により発条作用によつて作用位置に復帰させる構成)とを含むものと解せられ、右(イ)、(ロ)のいずれの場合も、所要の柄板が作用位置にあり、その他の柄板が不作用位置にあるという状態を得ることができる結果に全く変りがなく、作用効果においても差異がないから、右のとおり解することに何の妨げもない。また、前掲甲第三号証によれば、前記認定のとおり、先願発明の明細書に記載されている実施例は(ロ)の構成を採つているが、実施例の装置に、例えば柄板の摺動溝の形成方向を反対にする等、当業者ならずともきわめて容易にしうる変更をすることにより、(イ)の構成の装置となるものである。

以上のとおり、柄板(選針部体)の位置に関し、先願発明の構成は、(イ)または(ロ)であると解せられ、これを(ロ)に限定すべき事由は認めえないところ、第一発明の構成が(イ)であることは当事者間に争いがないから、第一発明は、先願発明と(イ)の構成において同一である。この点についての本件審決の解釈及び判断は誤りというべきである。

(二) 本件審決は、また、第一発明は先願発明におけるように柄板(選針部体)を発条作用に抗して移動させる作動装置を備えていない点で相違があるとする。

成立に争いのない甲第二号証(本件各発明の特許公報)によれば、第一発明も、手編機の選針部体変換装置という物の発明であり、常時不作用位置に位置させた選針部体を一旦すべて選針準備位置(作用位置)に移行させ、そのうち所要のものだけを係止部体により選針準備位置に係止させる構成によつて、選針部体の二位置選択を一斉にしかも的確にできるとの作用効果を奏するものであるから、選針部体を常時不作用位置に位置させる手段及び作用位置(選針準備位置)に移行させる手段を当然に必要とし、これらの手段は先願発明における発条作用及び作動装置に相当するものであり、現に第一発明の明細書に記載されている実施例は、選針部体を常時不作用位置に位置させるためのスプリング及びこのスプリングの作用に抗して各選針部体を作用位置に移行させるための操作片、回動片、連杆、ピン及び牽引環等の一連のもの(作動装置に相当する。)を備えていることが認められる。したがつて、第一発明は、その構成上、先願発明における発条作用に抗して選針部体を移動させる作動装置またはこれに相当する装置を具備しており、先願発明との間に差異は存在しないから、この点に関する本件審決の前記判断は誤りといわざるをえない。

(三) 被告は、仮りに、柄板(選針部体)の位置に関する先願発明の構成が(イ)または(ロ)であるとしても、本件発明の構成は(イ)のみに限定したものであるから、両者が同一であるとはいえない旨主張するが、(イ)の構成より成る第一発明は、先願発明と(イ)の構成において同一であり、かつ、第一発明を先願発明の構成の一つ(イ)に限定したことによつて、第一発明が先願発明の目途した作用効果と異なる特段の作用効果を新たに収めることに想到したものと認めるに足りる証拠はないから、第一発明は、先願発明と同一の発明であるというべく、被告の右主張は理由がない。

(四) 本件審決は、第一発明と先願発明とが異なる発明である以上、第一発明の構成(1)ないし(4)をすべて備えている第二発明も、その余の構成(5)、(6)につき論ずるまでもなく、当然に先願発明と相違する旨判断しているが、既に判示したとおり、本件審決がした第一発明と先願発明との対比判断は誤りであつて、両者が異なるとはいえないから、第二発明の構成(5)、(6)につき論ずることなく、直ちに第二発明と先願発明とが相違するとした本件審決の判断は、その余の点につき判断するまでもなく、誤つているといわざるをえない。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容する。

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